東京都内某所。商店街をちょっと外れたアパートでは、2人のお母さんが手作りの カバンを背負わせて、寒くないようマフラーを巻きつけてあげていた。 「当麻くん、伸くんに我が侭言っちゃダメよ。お金はココに入れるからね」 「ん、分かった」 「伸くん、当麻ちゃんの手は離しちゃダメよ。大きな道は伸くんが外側を歩くのよ」 「うん、大丈夫だよ」 お揃いのカバンに、色違いのマフラー。この間4歳になった伸くんは水色、まだ3歳 の当麻くんは青色のマフラーで、元気良く出掛けて行った。 「「行ってきまぁーす!!」」 今回、4歳になった伸くんに一人でお使いに行かせてみよう、と伸くんのママがテ レビ局に応募した所、それが採用となり今日はその収録を迎えていた。 3月も中旬を過ぎ、寒さも少しは緩んで来ていて、今日は比較的穏やかな暖かい日 だった。が、まだ風はひんやりと冷たい。 伸くん一人の予定だったが、お隣の当麻くんが一緒に行く〜!とダダを捏ねた為、 それならば2人で行かせようと言う運びとなり、2人のお母さんは、小型マイクを仕 込んだカバンを持たせて、大好きなお好み焼きの材料を買いに行って貰う事にした。 小麦粉に干し海老、青海苔とキャベツ。キャベツは半分に切った物を買って来てね、 とお願いをする。 「当麻くん一人じゃ不安だけど、伸くんが居てくれるから安心だわぁ」 2人の後ろを隠しカメラで追うスタッフからの映像をモニターで見ながら、当麻くん のママが呟く。 「当麻くんが居てくれるから、伸くんてばお兄ちゃんぶって。弟を欲しがってたの」 伸くんのママも楽しそうに2人の様子を見詰めている。 2人は手をしっかりと握り合って、大きく手を振りながら歩いて20分のスーパー へと向かっていた。 「当麻ちゃん、今日何買うか覚えてる?」 「うん!えっとねぇ、キャベツとお粉と小っちゃいエビと、あと青ノリ」 「当麻ちゃん、スゴイ!全部覚えてるの?」 「うん」 先程それぞれの母親から「忘れないでね」と念を押されて覚えた買い物の内容を、行 きすがらそれを復唱しながら、てくてくと音が聞こえそうな足取りで歩く。 スーパーは、まずアパートを出て直ぐ右へ曲がる。3軒先に2人がちょっと苦手な 大きな犬がいる家の前を通り、その先の川が流れている橋を渡る。橋を渡ると交差点 に差し掛かる。そこで信号を渡って道路の反対側に渡り、150m程歩いた先にあっ た。基本的には真っ直ぐの一本道だが、ポイントは「犬」と「信号」。この二つをク リアして、無事往復して帰ってくることができれば、お使いは大成功だった。 やがて第一のポイントである大きな犬のいる家の前に差し掛かった。ゴールデンレ トリーバーが2匹繋がれているが、大人しい犬種であり、リードも限界が道路よりも 1m程中側に繋いであるので心配は無い。だが子供の目線で見れば、自分と同じ位か 自分よりも大きい犬が2匹、である。やっぱり何となく怖い。 それまで道路側を歩いていた伸ちゃんが、歩みを止めて当麻ちゃんを見た。当麻ち ゃんの目は、2匹の犬に固定されていて、伸ちゃんの手をぎゅっと握った。 「当麻ちゃん、こっち側においで」 そう言って当麻ちゃんを道路側にやり、自分は犬側を歩く。心の中で、平気平気!と こっそり唱えながら。でもやっぱり早歩きになってしまって当麻ちゃんをグイグイと 引っ張ってしまっていた。 「伸ちゃ、手、痛い」 “ちゃん”が上手く言えない当麻ちゃんに名前を呼ばれ、慌てて振り返る。犬の姿は 門の影に隠れていて見えず、橋向こうの信号に辿り着いていた。 「ごめんね。手、まだ痛い?」 「ううん、へいき。早く行こ」 信号が青に変わって、2人は再び元気に歩き出した。 |
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