スーパーに着くと、2人は小麦粉のコーナーへ向かった。が、種類がたくさんあり
ずぎて、どれを買ったら良いのか悩んでしまった。伸ちゃんがどうしようかと途方に
暮れていると、当麻ちゃんが伸ちゃんの手を引っ張って走り出した。
「おばちゃ、あのね、お粉が欲しいんだけど」
見知らぬ通りすがりの女性のスカートの裾を、当麻ちゃんはパッと掴んで空いてる方
の手で引っ張る。女性は驚いていたが、どうやら子供たちが困っているらしいと理解
し、当麻ちゃん達と同じ目線までしゃがみ込んでくれた。
「なあに?何のお粉が欲しいのかな?」
「えっとね、あのね、お好み焼きを作りたいの」
「お好み焼き?じゃあ選んであげるからお粉売り場に行こうか」
 モニターを見詰めていた当麻ちゃんのママは、実はお菓子のコーナーに行くんじゃ
ないかと内心思っていた。しかし、以外にも我が息子は3歳にして、人に物を尋ねる
という芸当をやってのけて見せ、その成長振りに感激していた。
 その後、目的の物を全て買い終えてレジを済ませ、それぞれの手に荷物が一つずつ
持たれた。伸ちゃんは小さ目のキャベツが丸ごと一個。どうやら半分でいいからね、
と言う部分はすっかり抜け落ちてしまっていた。残りの荷物を当麻ちゃんが持つ。小
いさいキャベツと言っても、これが子供には結構重い。
 スーパーを出て、今来た道を戻ろうとする伸ちゃんの手を当麻ちゃんが引っ張り、
なぜか反対方向の左へと曲がる。スーパーの左側には車が数台停められる駐車場があ
るのだが、その一角に小さなタコ焼き屋があった。

「いっけない!アレがあった!!」
当麻ちゃんのママが声をあげる。
「あのタコ焼き屋さん、いつも買い物の帰りに寄って帰るんです・・」
当麻ちゃんの中では、買い物とタコ焼き屋さんはイコールで繋がっているのだった。

 子供の背では届かない高さにカウンターがあるタコ焼き屋の前で、伸ちゃんが当麻
ちゃんを抱っこして、顔を真っ赤にしながら持ち上げていた。
「遼ちゃ、タコいっこ下さいなー」
タコを器用にクルクルと焼いていた遼は、ふと手を止めて顔を上げる。視線の先には
小さな手がプルプルと振るえながら百円2枚を掲げていた。更に体を前に乗り出して
みると、すっかり顔馴染になった小さな当麻が見慣れない子供に抱き抱えられていた。
「よっ、当麻。今日は友達と一緒か?」
「うん。伸ちゃとお使いなの。タコいっこ下さいな」
そう言って小さな手に乗った二百円を一生懸命に高く差し出す。
 遼の店では、ちょっと小さ目のタコ焼きを4個百円で売っている。だからおやつ代
わりに近所の子供達が、毎日百円を握り締めて買いに来てくれている。
 伸ちゃんは当麻ちゃんをそっと降ろして、こんにちは、と挨拶をした。遼は当麻か
ら二百円を受け取り、少し前に焼けたタコ焼きを一皿ずつ手渡してやる。
「まだ熱いから、火傷しないように冷まして食べるんだぞ」

 十分後。2人は綺麗に食べ終え、遼にバイバイをして手を取って歩き出した。何故
か今度はスーパーの裏手に回り、大通りの一本中道を川方向に歩いていた。すると一
軒の中華料理店が目に入る。そこには高校生らしき男の子が店頭を掃除している最中
だった。当麻ちゃんの目が彼を見つけるなり、また伸ちゃんの手を取って駆け出した。
「秀ちゃ!」
秀と呼ばれた高校生が顔を上げ、当麻ちゃんの顔を見てニカッと笑った。
「よう、今日は2人でお使いか?」
ここでも伸ちゃんは丁寧に、こんにちはと挨拶をする。そんな2人の頭を撫で回して
彼はニコニコと笑った。
「こんにちは。コラ、当麻ぁ、挨拶忘れてるぞ」
秀に言われて、あ!と言う顔をし、慌てて胸の前に握りこぶしを作って姿勢を正す。
「押忍!」
「押忍!ダメだぞぉ、挨拶は最初にしなくちゃな」

「あ、そうだ。当麻の通ってる道場の子だわ」
当麻ちゃんは先月から近くの道場に通っている。そこで当麻ちゃんに稽古をつけてく
れている秀くんだ、と当麻ちゃんのママは思い出した。彼の実家を何故当麻ちゃんが
知っているのかは、分からないままだった。
  ←back
next→