66年ぶりの「戦地からのたより」

(NO19)<伊那村報を見て考える>連載31回

  伊那村報・第18号・昭和14年11月10日発行

《 軍部供出、兎(うさぎ)毛皮、兎肉について 》

 春より丹精して飼育してきました、軍用家兎もいよいよ供出する次期がまいりました。うさぎ毛皮は軍人被服原料として、兎肉は缶詰肉として、全部軍部に納入いたす事になりました。

 本年度の供出方針を、左記のようにいたしますゆえ、個人販売は極力中止し、系統農会より軍部へ納入するよう、各農家皆様にお願い致します。

  イ、            巡回共同処理。指定皮むき人夫が月3回出張します。

  ロ、            兎毛皮価格は、丸掛けで1貫目のものは、1円30銭。

  ハ、           兎肉供出方法、1農家1頭を必ず供出。

  ニ、           兎肉価格は、丸掛け百匁(もんめ)対し、22銭。

< 種兎保護について >

 軍部供出により、毎年種兎の数が少なく、春に至り仔兎の不足をきたす心配がありますから、農家組合長と相談の上、適当なる種兎を各農家組合5頭くらいを保護して、翌年の仔兎の不足をきたさざる様ご注意を願います。

    戦線からの便り☆ 福沢伝冶郎君より、

謹啓、 国家多難の秋、いよいよご清祥の段慶賀の至り。(中略) 

いつしか中支にも秋が訪れ、あの酷熱は去り、冷たさを身に感ずる気候となりました。

 小兵、その後たびたびの討伐に参加せるに負傷もせず、気候不順のため、悪性のコレラ、マラリヤなどの流行せる中にありて、至極健全にて聖戦目的達成に邁進いたし居られることは、皆々様の武運長久のお祈りの賜物と厚くお礼申し上げます。

 上陸以来早や1年有半、かなたこなたと転戦、いまは中支の一角○○より数里、○○鎮の警備についておりますが、一歩歩哨線外に出れば、便衣隊の巣にて、彼らは道路の破壊、電話線の切断などいわゆるゲリラ戦術を用い、一寸の油断もできません。

 さる日、○○の5日間にわたる大討伐に出動し、少数の敵と交戦、無事帰隊いたしましたが、その夜我々守備隊に約300名の敵が夜襲し来たり、交戦1時間余にしてこれを撃退せしめました。(中略)

 いまは柿や栗の出さかりにて、内地を思い出し異国のような気は少しもいたしません。

 馬場昇曹長殿も元気旺盛に張り切ってご奉公いたしております。

 留守中は家においてはいろいろとお世話さまになる由、万事よろしくお願い申し上げます。末筆ながら村内皆々様によろしくお伝え下さい。 敬具

       10月10日  中支陣中にて  福沢伝治郎   銃後奉公会長殿

編集余録

火山耕地・鈴木みやじさんは、1人息子善三君の出征留守宅を守って、雄々しくも家業に励んで居られるが、毎早朝、高鳥谷神社に日まいりをして、境内くまなく清掃され、一日として欠かしたことはないとの事で、『軍国の母』と村民ひとしく感激している。

今月23日は、新嘗祭(にいなめさい)である。全国一斉にこの日を「新穀感謝祭」として意義深からしめたい。

支那事変起こってすでに3年。戦時下のこととて、物資の不足に苦しんではいるが、日々の食事が安心して腹一杯いただけるは、なんと言うありがたいことであろうか。これは全くわが国が、建国以来、農をもって国本として、幾千年来、食料の自給自足を続けてきた賜物に外ならぬ。(14,11,5)

 《Aのコメント》

「 農機具の配給状態が悪くなってきた。製造元への鉄の割り当てがこないからだ。鉄のストックはなくなる一方で、注文に応じられない情勢が見えてきた。くぎや石油などの苦労とおなじになってきた。」・・・と産業組合欄に書いている。毎号“時局に鑑み、断乎生活改善をはかれ。生活改善節約貯金。○自己の生活を検討せよ!。○非常時経済生活をはかれ!。”とある。・・・・・国民の生活をこのようにして、中国に侵略し、誰が、何を得たのであろうか?

次回予告・「 春待つや さらにかぶとの 緒をしめて 」

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