今年は蜂の巣がやたらに多い。家の周りで作業する時や畑で土手草を刈る時などハチに注意して居なければ
ならない。石垣の目地にモルタルを詰める工事をした際には6個見つかり、車庫の入り口の上に一つ有ったので
屋根を調べると5個見つかった。植え込みのドウダンやハランの葉でも数個みつかった。
富永氏は防護服をまとい、バックホーの前に膝立ちになり作業をした。、殺虫スプレーを噴射したり、
穴に棒を突っ込んで巣を壊した後、蜂の出入り口になっていた穴を布切れを丸めて塞ぎ、蜂の忌避剤を
周辺に塗って駆除を完了した。
母屋の巣についてであるが、八月末になっても取りに来てくれない。電話すると富永先生はあちこち出かけていて
お忙しいらしい。蜂の巣は、見つけた時リンゴ大の大きさであったがラクビーボールより二廻り程大きい
ものになり、外側で四、五匹の蜂が忙しそうに動き回っていた。
母屋の屋根のスズメバチの巣を見つけてから一週間ほど経った頃のことである。車庫の裏にミニバックホー
を置いて居た。庭の整理に使おうと、エンジンをかけ、5メートルばかり走り、180度旋回した。その時
である。5、6匹のスズメバチが地面を飛び回って居るのに気づいた。やばいっ、何処かに巣がある。
慌てて飛び降り退避した。
ハチにバックホーを乗っ取られたことを家族に伝え協力を頼んだ。先ずは、エンジンを止めなければならない。
ハチは絶えず数匹が飛び回っており、虫の専門家であっても無防備では手が出せない。息子が雨合羽を着て長靴を
履いき、麦わら帽子をかぶり、その上から補虫網をすっぽりとかぶった。有り合わせのもので
なんとかハチ刺され防止の服装を整えた。
素早くエンジンキーを抜き取ってもらう。あれっ、エンジンは止まらない。当ったり前だっ。こいつはディーゼル
エンジンだっ。近寄るとハチが襲ってくる。高枝バサミの先がフック状になっているので、それを利用して
スロットルレバーを停止位置まで引っ張って、エンジンはようやく止まった。
二階のベランダを乗っ取られ、つぎはバックホーである。これには参った。早速駆除することにした。
有り難いことに中川村には望岳荘にハチ博物館を作った蜂研究家の富永朝和氏が居られる。電話すると
駆除を快く引き受けてくれた。
数日後来て下さり、現場を見た結果、バックホーのはすぐ駆除し、母屋のは被害が出るとは思えない
ので八月二十日過ぎに取ることになった。
これではベランダの手摺に布団を干すことは怖くて出来ない。蜂に軒先を貸した積りが、ベランダを乗っ取られて
しまった。
九月九日の午後、富永さんが蜂の巣を取りに来てくれることになた。朝から蜂の巣を写真に収めたり眺めたり
していると、白いものを抱えた蜂が巣から地上に落ちてきた。蜂は飛び去ったが、落ちた所に行って見ると
3.5センチぐらいの大きな蜂の子が落ちていた。これは別のスズメバチが巣を襲っているのかなと思い、
あとで富永さんに話すと、それは「蜂の子を捨てて居るんだ」と教えてくれた。
スズメバチと云っても何種類ものスズメバチが居る。母屋とバックホーに巣を作ったのはキイロスズメバチ
である。この地方ではアカバチと呼んでいる。ちょっと小ぶりではあるが、気性が荒く、スズメバチの被害
のほとんどはこのキイロスズメバチである。
いよいよ蜂の巣取りの作業がはじまった。蜂の専門家である富永先生のプロの技をじっと見守った。
先ずは足場の梯子架けであるが、防護服を着用せずの作業である。とにかく物音を立てずにゆっくりと行うので
ある。蜂の巣の直下に梯子を架けても、蜂の巣の様子に変化は起きなかった。
ところが、最後にベランダの内側に踏み台を据え置く際、手が届かず床面に落とす形となり、ドスンと音をさせた。
すると巣の中から10匹ばかり出てきて、巣の周りがにわかに賑やかになった。
スズメバチは振動に非常に敏感に反応するのである。
どうやって取るのか興味深く見守って居ると、防護服を着用した。長靴を履き、雨合羽を着て、ゴム手袋をする。
袖口と手袋をガムテープでしっかりテーピングする。網付きの帽子を被る。補助作業者はフルフェイスの
ヘルメットを被り、ズボンの裾にもテーピングしている。蜂に刺されないように完全装備である。
まずは業務用小型掃除機を持ち上げ、梯子にくくり付けて吸引ホースの口を蜂の出入り口の所へ持っていき、
出てくる蜂を片っ端から吸い取るのである。
蜂の巣を軽く叩いて蜂を追い出し、吸引してしまう。
何匹もの蜂が巣の廻りを飛び回っているが巣に止まる奴や入り口近くでホバーリングする奴も吸い込んでしまう。
この作業はおよそ5分で終わった。富永先生の周りを飛び回る蜂は居るが、地上で見ている我々の所まで
蜂は襲って来なかった。
次は、巣の切り取りである。蜂の巣に袋を被せ、左手で下から支えていて右手に鎌を持ち、巣を屋根から
掻きとるのである。これまでの作業は片手で梯子につかまれたが、この時は、両手作業で梯子につかまれない。
高い所なので体のバランスが取りずらく危険な作業であった。
伊那谷には蜂の子を食べる食文化がある。シーズンには産直の店頭に並べてある蜂の巣を見かけることがある。
この間アシナガバチの蜂の子の塩煎りにして試食したが、今回は食する気には成れなかった。アカバチの蜂の子は
お隣にプレゼントすることにした。
掃除機で吸い取った蜂と煙で仮死状態に成った蜂を、富永先生は持ち帰られた。蜂の親を焼酎漬けか何かに
利用するらしい。
今年は蜂の当たり年である。アシナガバチの巣はあちらこちらで取り、アカバチには2箇所に巣を作られた。
田舎暮らしは思わぬ体験をするものである。幸いな事に、今年は誰も蜂に刺されなかった。
その後、巣の痕の周りに蜂の忌避剤を塗布して高所作業は終了した。