弥太夫メモ 詩 あるいは 言葉の編み出す世界 学生の頃、哲学や文学を読みあさっていた時期がありました。仲間たちと小さな同人誌を発行して、 なんとか表現の幅や深さを広げたいと願ってきました。しかし、もっぱら「散文屋」という自分を発見することが多かったと思います。 詩に関しては、きわめて寡作で、「詩のごときもの」しか書けない現実にいつも突き当たっていました。いや、これは今でも変わりありません。 詩とはなんだろう。また人の考える詩と自分の考える詩はちがうのではないか。そんなすっきりしない気持ちが30年くらい続いていました。 なお、自分の考える詩への評価を問う、というと気負った言い方ですが、2005年度のある文学賞の詩部門に、生涯で初めて応募してみました。 みごと落選してしまいましたが、実りももたらしてくれたという気持になったのも事実です。その経過を、ここに、まとめてみました。 Contents |
夕暮れ まわりは暗さを増し 不意に鳥のような鳴き声が さあ帰ろう 遊びに夢中だった少年は そして40年 ゆるやかな風が 遠くの街灯りが (2005/04/07) |
わたくしは わたくしは涙を流しています その涙は この世に生を受け この世の中を受け入れ また 何億年と引き継がれてきた (2005/01/24) |
独白 数え切れぬほど愚かなことをしでかしてきた ある日 気づくとスクリーンは 力を抜いて このオレもやっと好々爺になれる (2005/01/24) |
無題 あいするなんて 相手のところに そんなのは いつからなのでしょう 知らぬまに どこか華やいでいて あなたがいなくなると 空ろさに耐えかねて 2005/01/07 |
風のあいさつ(旧作) 昼休みのデスクで インターネットの 山里の地図には 平地と山岳の境界線あたりの 風速はやや強く 冷たい風が斜面を駆け下りる夕暮れには 今日は寒いか パソコンの地図の向こうに呼びかける 夕暮れ時・・・ 2004/12/07 |
容器 あるじが出て行った 飲み干されたあとの そらに境界はない からっぽとは なんにもない 最期の時を迎え 目には見えない (2004/12/06) |
つまむ なかなか 人々は見つめていた しかし それでも つまめないものは つまめてしまうと つまめてしまえば 2004/11/29 |
梢の風音 私はここに立っている 年を重ねるごとに枝葉を広げ 山の冷気が斜面を 何と言うことはない はるか下の足元では しかしそれも一瞬の風景 静寂に包まれた山の中 灰色の枝のいたるところで 2004/11/11 |
ある日そして永遠に 離れるほど 時がたつほど そのことに気づいたのは 夜の駅のプラットホーム ホームに佇むキミの影が 向かいのホームにいるキミと もう言葉は交わさない それぞれに歩みだした方向は 列車がスクリーンのように 時計は その日から ますますボクの中で純化され 離れるほど 時がたつほど それに気づかせてくれたのは 2004/11/02 |
太郎伝説 何百年と時空を旅して 自分の目覚めた場所が おそるおそるタイル張りの流線型の住まいを訪ね 時空湾曲反転設備が浜辺にあって おばあさんの住んでいたという方向へ とにかく納得するしかないのだった 他に行く場所とてないのだった 見慣れた海の景色が 夕陽が半島の先に沈み 2004/10/26 |
『夜空』 やさしさは やさしいことは やさしさは まず 人のうしろにまわって 目立たず格好よくない そのことは気持ちの弱さなのだろうか だから心をオニにしようか 夜空には 2004/09/24 |
水について F・ポンジュ風に 空気中には水のもっとも小さな単位である水の分子が飛び交っているが、われわれにはそれは見えない。 湖の水面や、雨上がりの地表では、たくさんの水分子が飛び交い、お互いに激しく衝突してはビリヤードのように散乱してしまう。 きわめて稀にだが、水分子同士が衝突を起こして、引力を感ずると付着してしまう。化学者は、分子軌道の電子雲の密度を計算し、電気による引力であると説明を加えるだろう。別に反応が起きたわけではない。もっとも原始の『液体』ができたのだ。 液体の卵も、相変わらず激しく飛び交うが大きくなるので、よりたくさんの水分子の衝突を受けねばならない。このように引力プロセスが進むと、やがて膨大な数の水分子が結集した、しかしながらわれわれにとっては極めて小さな球体が空気中を漂う。 どんなに小さくともこれは透明な水滴で、かつ完全な球体をなしている。 太陽系惑星が形成されていくとき、宇宙に漂う星間物質が衝突を繰り返しながら成長し、やがて巨大な球体惑星を形成するのと同じプロセスを辿るのは不思議だ。 ちいさな球体の表面に入った光は、正確に光の屈折現象を起す。色ごとに屈折角度が微妙に違っている。 雨上がりに太陽の恵みがふりそそぐと、光線の方向から幾何学的厳密さで決まるある方向の水滴群が、いっせいに屈折した光を放ち、われわれの眼に飛び込む。 太陽を背にして自分の頭を中心に円環状方向から光が到来することは、この幾何学問題の帰結だ。したがって円環は完全な円形である。 また光の色ごとに円環は多重化している。円環の中心は大抵は地中深くにあって、地表に出ているのは円環の上半分だ。山から山へ、あるいは山から谷へ。ようやく虹が出現したのだ。 2004/09/22 |
朝のおもむき おいおい邪魔だい ねえハンカチはないか? ほんとメシなんか食べてるひまないぞ 廊下は整列! ああ、カギはどこだっけ? 玄関がバタンと閉まり やっと静寂が支配する 息をひそめていた 2004/09/17 |
ロボット はい、ここに「効率」とか 「ちょっとキミ、元気ないね」 35年の生涯ローン 午後 風が吹いた ぜんまいの解けたロボットたち 2004/09/16 |