8、平和がみちあふれる郷土をめざして <赤須喜久雄の訴え>
上井(うわい)・下井(したい) いまむかし 7


7、東伊那における、第2次水革命の展望


今の「やぶはらじょうばん」

  − 生産と日常生活の生命線 −
 竜東に水がない・・このことは今日、開発にとっても、竜東の繁栄と発展のためにも、大問題となっています。この水のために、私たちの祖先が大変苦労して水の確保と維持管理のために、血と汗と涙を流してきました。
  現在、上井・下井によるところの実際の受益面積は、東伊那地域だけでも約50ha以上であり、それは伊那・栗林の水田面積110haの約50%であります。
  このことからも、いかに東伊那の農業生産にとって、この2つの井筋が大切なものであるかわかります。
  また、日常の生活用水としても重要であります。この水は夏期・冬期に限らず、防火用水としても決定的に重要であります。
  さる昭和37年、栗林の細田での火災は、消防ポンプも出動しましたが、上井の水が来ないために、見ている前で3戸を全焼させるということになり、水が来た時にはすでに燃え尽きていた・・・という忌わしい出来事も、ついこの間のことのように思いだされます。
  とにかく東伊那にとって、この「上井と下井」は絶対に欠かせない重要な井筋です。

    第2次・水革命
  嘉永年間から安政年間にかけて、上井・下井の完成をもって、東伊那地域における第1次水革命が行われたと規定するならば、いまやまさに第2の水革命を実践する時期が来ているといえます。
  先程ものべましたが、2つの井筋の完成により、東伊那の情勢は大きく変わりました。しかし、水が不足する東伊那にとって、その水の絶対量を増やすことがどうしても必要であります。
  そこに、“第2次の水革命”の必要性があるのです。


   ・・・< 東伊那の農業と将来 >・・・ 
  戦後30年、日本農業は農業破壊の自民党農政のために、まさに危機にひんしております。世界的に見ても食料問題は“人類の存続か滅亡か”の問題となり、食料の自給は至上命令です。
  農村県長野県の17市中、全農家戸数にしめる兼業農家の率が1番高いのは、岡谷市でありますが、駒ヶ根市は岡谷に次いで2番目に位置しております。
  その理由はいろいろありますが、そのひとつに、身近に手頃な働き場所が確保されているということです。いま自民党農政のもとで、兼業を余儀なくされ、50,60の主婦の方々まで工場で働かざるを得ない状況であります。ところが今日、資本主義体制のもとで世界的に不況とインフレが進行し、為政者がそれを解決することができず、また解決の意思もなく重大な事態が起きています。
  駒ヶ根市においても同様で、昨年の春以来、首切りや一時帰休など婦人・高年齢層を中心に1000人以上の人たちが職を失いました。
  いま日本の経済に求められているのは、部分的な一時しのぎでなく、経済政策、経済の運営やしくみのパターンそのものの根本的な転換であります。
  この転換の一つの柱は、1960年代以来の「高度成長」のなかで、日本の財政や金融や税制のしくみすべてが、大企業の資本蓄積に有利なように組み立てらっれ、国民生活や中小企業、農業が犠牲にされてきました。この仕組みを根本的にあらためて、国民生活本位に切り替えることです。
  2番目は、「日米経済協力」のもとでのエネルギー、食料の外国依存型の経済を、エネルギーのめんでも、食料面でも農業を国の基幹産業と考え、日本の国内に存在している可能性を最大限に汲みつくし、まずそれに依拠する自給優先の政策にきりかえることであります。
  この2つの問題にこたえなければ、今の日本経済が直面している諸問題や、将来の問題についても、根本的、抜本的にこたえる解決策とならないことは明瞭であります。
  このような経済情勢の中で、日本の農業を犠牲にしない、守り発展させる農政への政策の根本的転換は必要であり、必然的に求められる道であります。
  産業基盤整備については、東伊那の農業と日常生活にマッチした、この環境にあった生産と生活の形態を見通し、実現することが大切であります。
  いまこそ時機到来です。効率が悪い状態を改良し、苦労のしがいのある生活環境をつくらなければなりません。
  それではどのようにして第2次水革命をやるか?、私はここで3つの問題を提案し、一緒に検討したいと思います。それは私ども地域住民の強い要望と市長への突き上げの中で、すでに今年1月6日、市議会全員協議会報告・説明があったものでありますが、駒ヶ根市基本構想3ヶ年(昭和50年〜52年)実施計画書の中に取り上げられているものであります。
  駒ヶ根市基本構想の「産業開発」の中で、竜東開発整備事業として、
☆事業主体は、赤穂地区における大田切土地改良区のような団体をつくり運営してゆく。
☆その開発事業の内容は、3つの事業で
   @圃場整備・・・1区画30a、事業費1500万円
   Aかんがい排水  上井・下井事業費  500万円
   B水路新設工事(大久保発電所、用水導水工事)事業費1000万円
◆ これら3つの事業の負担率については
      県補助   40%
      市補助    5%
      地元負担  55%

○ このほかに、農道水路整備県単事業として、上井がとりあげられており、市単の用排水施設整備事業としては、上井・下井水路改修工事が樋泉井筋とともに、約5000万円(県補助60%)計画されています。
  すでに昭和48年度より3年計画で、東伊那全域の水利流量調査がはじまり、50年度を持って一応終わります。
  この調査結果を51年度に分析し、竜東開発整備事業計画を立案し、52年度から実施するというものです。

  ここに取り上げられている3つの問題は、
@ 上井・下井の強化
A 天竜川よりの導水
B 土地基盤整備


  で、この3つの問題に対する、私の個人的な見解をお話し、皆様方の相互批判をお願いしたいと思います。



  第1の問題  上井・下井の強化について
  昭和48年(1973)の市議会一般質問で、私は竜東の水問題解決のために、三峰川や小渋川からトンネルを掘って導水し、中沢の「大洞」にダムをつくってはどうか・・と「赤須試案」を発表し提案しました。駒ヶ根新聞(党・東伊那支部発行)でも政策にして、広く市民に宣伝いたしました。
  当時、上伊那広域行政事務組合では、長谷村の「戸草地域」にダムをつくる構想をたてました。このダムの貯水容量は、諏訪湖の数倍の規模のものでした。
  調査費100万円をつけ、県から100万円、計200万円をもって建設省で調査をしました。
  結果はみごと失敗でした。

 戸草ダム付近の地質について >
   おもなものをあげると、
●三波川帯
    ・三波川結晶片岩 − 黒色片岩、緑色片岩
    ・ミカブ貫入り岩 − 蛇紋岩、かんらん岩、輝岩、はんれい岩
●小渋帯
    ・小渋層群(古生層)− 砂岩、粘板岩、チャート石灰癌岩、輝緑凝灰岩
 などが入り乱れており、特に悪い岩質もありダムに適さない。
 このうち、輝緑凝灰岩は水を含むと崩れやすい。蛇紋岩は亀裂が多い。
 三波川帯は、破砕帯を多くつくっているが、そのうちでも黒色片岩の付近は、はげしいものがある。
 戸草ダムは、以上の状況により難しい(できるか否か、工法的にできるものがあるかもしれないが・・検討中)



  他の河川からの新宮川への導水については、小渋川からの導水など、今後に残されている問題があるとはいえ、建設投資への地方自治体や関係者の負担を計算してみると、高い価格の水となってしまい、結局水確保については他の方法に求めなければならない状況です。他河川からの導水はだめとしても、新宮川へダムをつくる件については、昨年来着々と進められてきており、現在、ダムの位置・規模などについて計画もでき、最終的に地元との折衝に入っている段階です。
  ■このダムの場所は、上井取り入れ口のすぐ下流の大坪地籍で、建設目的は、
    ・上流からの土砂の流出を止めること。
    ・用水確保、水をためる。     ・・・などである。
  ■規模は、H15mくらい。
  ■実施は予算がつき次第着工の予定。
 このダムの完成によって、上井は水確保という点で大いに強化されることでしょうし、また下井も強化されることになります。
 昨年「新宮川水系水利管理組合」なるものができました。しかし、主要な水利権者である「樋泉井筋」の関係者が参加していないものであり、その経過も含め、問題は今後に残されているといえます。


第2の問題  天竜川よりの導水
@ 水利をどう解決するのか。現在東伊那への導水は?

・下の平用水 大沼氏他21名。  かんがい面積 =  4ha
・門前地区かんがい用水 =  1ha
・塩田地区かんがい用水 =  6ha
・東伊那樋管 =  41.5ha
・下がり松井堰(さがりまつ、いぜき) =  35ha
・中村かんがい用水  =  1.4ha
・荒井かんがい用水  =  0.2ha

  などがあります。

  これらの中で、最近(昭和43年)権利を獲得した下塩田へのポンプアップもありますが、それぞれ長い歴史の中で権利を獲得してきたのです。
  建設省の話によりますと、「水利権者に権利のある天竜川の水は、その水をどこでどのように、また全量使ってしまおうとじゆうである」と解釈しています。
極端な話、水利権者が天竜の水を東京へ持って行って売っても良いということです。
  そこで問題は、現在獲得している水利権の水量はいくらかということと、後ほど「第3の問題―基盤整理」とも関連しますが、基盤整備後(もちろん新規開田などもありえるでしょうが)東伊那全体の使用水量から、既存の塩田川や他の河川と上井・下井など確保されている水量を差し引いた、不足する水量はいくらか?を計算し、天竜川からの既存の水量の穂方が多い場合、総合的な立場から、今まったく権利のないところでも水を確保することができるのであります。
  新年早々、水問題で市長は私にたいして「天竜川よりの導水については、建設省中部地方建設局の内諾を得ている」と話がありました。
  東伊那全体が水確保で一致さえすれば、水利権は問題なく解決できるのです。

A 大久保発電所放水路からの導水の意味
  天竜川からの導水の取水位置について「大久保発電所放水路」が選ばれています。これは河床が上がったり下がったりすることなく、安定しているからであります。
  かつて天竜川の河床が上がって困りました。現在では美和ダムができたことによって、土砂が流れてこず、駒ヶ根近辺では逆に河床が下がっているのが実情です。
  これらの長い歴史の中で、変化することなく安定している発電所の出口が選ばれたのも当然のことです。



   第3の問題  基盤整備
@  大田切土地改良区の場合の水利権の解決
  土地を災害から守り、合理的な利水管理と水利用により、水争いをやめ、総生産の増大と、平和にして豊かな農業と農家生活安定はかるために、旧赤穂村時代から歴代首長はもとより、多くの農民が土地改良実現のために努力してきました。
  昭和35,6年頃から大田切と中田切を結ぶ、一貫水路の計画がすすめられてきましたが、36年、さらに昭和39年に伊那谷をおそった大災害によって、水路だけでなく大田切と中田切の間にある、中小の河川の改修と各河川上流の、治山治水対策を合わせた総合的な対策の必要がさけばれ、また同時に地域住民の生活様式の向上にともなう利水の増大、工業用水の拡大もあり、当時県としても大田切、中田切、与田切川の総合的な対策として、三田切開発計画も発表されました。
  このような背景のもとに、昭和40年にには県は調査費を計上して、基礎調査が進められる一方、関係農家の積極的な協力が実り、昭和42年に県営による圃場整備の予算計上の確定となり、43年の流域全農家の参加によって、土地改良区が設立されました。
  大田切土地改良は、県の行政指導のもとに行われていますが、ここにはかつて上井(かみのい)・下井(しものい)、開田井、下平井などの井筋がありました。
 これら個々の井筋を統合し、「赤穂のなかの水はすべて大田切土地改良区のものである」
という立場から、水利権は放棄せずに一本の幹線水路から分配する方法をとっています。
  水利権のない山林・畑などなどについては、土地改良によって水も残るし、また山林や畑も参加してもらわないと土地改良が出来ないので、反当たり1万円出して水利権を獲得し、田んぼで引き取ってもらっているわけであります。

A 東伊那全域の水問題の解決
  さて、東伊那における水利権の問題は複雑であります。なにがそうさせてきたか?
といえば、それは「水の絶対量が不足」しているためです。
  この問題を上井・下井の強化と天竜川からの導水によって解決し、さらに東伊那の実情にあった方法での、基盤整備とそれにともなう水路の新設をおこなえば、根本的には解決します。もちろん歴史的な「経過」あるので、それらは話し合いで解決しなければなりません。
  市の計画案では、地元負担率が高い問題もあります。これはもっと引き下げねばなりません。また1区画30aとされているが、東伊那地域の実情と住民の要求にかなった小規模とすることも大切です。
  いずれにせよ、あらゆる角度から住民全体で問題点を出し合い、前向きに取り組めば解決することができるでしょう。

☆道けわしくとも未来はひらける!!
  つい先日、栗林神社の東の畑地帯でいまから約2000年前の弥生式時代後期の遺跡が発見されました。日本ではそのころから稲作が普及しはじめ、住民は水を求めて住居を変えました。
 上井のできる少し前、約130年昔のことですが、梅雨時から夏にかけて水が少なく、春に田植えをしたときの三つ指のあとが、秋になっても田圃についていたそうですが、ある日突然“高鳥谷おろし”(颪)が降って、やっと息をついたということが今でも語り伝えられています。
 上井・下井をつくたときも、そして今もまさに血と汗と涙で井筋をまもってきたのです。
 20世紀も75年、まもなく21世紀が訪れます。新しい時代に即応した道は、みんなの力を合わせた中で必ず開けてくるのではないでしょうか。

   水は命のみなもとだ
   水なくして生命は保たれない
   日常生活に、生産に
   とりわけ百姓にとって水は命
   水、水、水 ・・・・・
   私たちの祖先が水で苦労し
   血と汗と涙を流して
   まもってきた水
   いま、私たちは
   その水をまもる


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